9月1日は「防災の日」です。水や食品、懐中電灯は見直しても、薬のことは後回しになりがちです。

防災バッグに薬を入れている方もいると思います。ただ、その薬はいつ入れたものでしょう。処方が変わる前の薬だったり、家族の薬と一緒になっていたりしませんか。

薬局の立場で考えると、災害時に困るのは「薬が手元にない」ことだけではありません。薬はあるけれど名前が分からない、何錠飲むのか説明できない。こちらも、かなり困ります。

防災の日は、子どもの頃から少し怖かった

N9薬局の薬剤師は二人とも、実は東海地方の出身です。

子どもの頃から、周りの大人に「東海大地震は間違いなく来る」と何度も言われて育ちました。今でいう南海トラフ地震の話です。防災の日になると学校で避難訓練がありましたが、「今日は訓練だから」と気楽には思えず、わりと本気で怯えながら参加していた記憶があります。

机の下にもぐって、校庭へ出て、先生の話を聞く。毎年やることは同じなのですが、そのたびに「本当に来たらどうなるんだろう」と考えていました。子どもなりに、地震はいつかの話ではなく、急に来るものだと思っていたんですよね。

東日本大震災では、会津若松市の避難所へ

私、岡本直也は、東日本大震災のときに会津若松市で避難所の活動に関わったことがあります。

当時、会津若松市では市内の体育館など、いろいろな場所が避難所になりました。そのうちの一か所を、私が在籍していた企業が請け負うことになり、私もそこで活動しました。

普段は体育館だった場所が、避難してきた方たちの生活の場になる。防災用品の一覧を見ているときとは、やはり感じ方が違いました。災害が起きた後も、持病の薬は必要です。でも、いつもの病院や薬局へ行けるとは限りません。この経験があるので、9月の防災記事では、薬局として薬の備えをもう少し具体的に書いておきたいと思いました。

防災バッグの薬、いつ入れましたか?

厚生労働省の資料では、毎日使う薬について3日分、できれば1週間分を備えることが目安として示されています。大きな災害では、いつもの病院や薬局にすぐ行けるとは限りません。道路が通れず、薬が届くまで時間がかかることもあります。

ただし、これは「薬を残すために今日から少なめに飲む」という意味ではありません。自分で回数を減らしたり、飲まない日をつくったりするのはやめてください。薬の種類によっては、急に中断すると体調が悪化するものがあります。

予備をどう持つかは、次の受診日や処方日数にもよります。少し余裕を持たせたい場合は、受診時に医師へ相談するか、いつもの薬局で聞いてください。たくさんため込む話ではなく、普段の治療を続けながら数日分の余裕を切らさない、という考え方です。

「白い丸い薬」では、特定できません

避難先で「血圧の白い薬です」「朝に飲む小さい錠剤です」と伝えても、同じような見た目の薬はたくさんあります。名前が似ていても、量が違えば別の薬です。

東日本大震災のときには、お薬手帳を持っていた方は、いつもの薬を早く確認できたという報告がありました。薬そのものと一緒に、薬の名前、量、飲む回数が分かる情報を持っておくと話が早くなります。

薬と一緒に入れておきたいもの

  • 現在使っているお薬手帳のコピー
  • 薬局でもらう薬の説明書
  • お薬手帳の該当ページを撮ったスマートフォンの写真
  • かかりつけの病院と薬局の名前・電話番号

電子版のお薬手帳を使っている方は、それも役に立ちます。ただ、スマートフォンの充電が切れることはあります。紙だけ、スマートフォンだけに決めず、コピーを小さな防水袋へ入れておくと安心です。処方が変わったら、古いコピーも入れ替えます。

家族の薬を、ひとつの袋にまとめない

家族全員の薬を大きな袋にまとめると、急いでいるときに誰の薬か分からなくなります。糖尿病の災害対策に関する厚生労働省の資料でも、薬は一人分ずつまとめるよう案内されています。

名前を書いた袋を一人ひとつ用意し、薬局でもらった袋や包装のまま入れてください。裸の錠剤を別の容器へ移すと、薬の特定が難しくなります。朝・昼・夕を自分で書き直すより、処方時の表示を残しておくほうが間違いが起こりにくいです。

市販の痛み止め、かぜ薬、サプリメントを日頃から使っている方は、それも一覧にしておきましょう。災害時に新しく薬を受け取ることになったとき、飲み合わせを確認する材料になります。

非常用の薬を、入れっぱなしにしない

防災用として分けた薬は、しまった瞬間に忘れやすくなります。半年後に開けたら、もう使っていない薬が入っていた。これは十分ありそうな話です。

処方が変わったのに古い薬が残っていると、避難先で現在の治療を取り違える原因になります。防災バッグの薬は「長く置いておく在庫」ではなく、普段の薬の一部を数日分だけ分け、処方が変わるたびに中身も見直すイメージがよいと思います。自己判断で古い薬から順番に飲むのではなく、使ってよいか迷ったら薬局へ持ってきてください。

保管場所にも少し注意が必要です。車内はかなり高温になるため、非常持ち出し用の薬を置きっぱなしにする場所には向きません。直射日光が当たる場所、湿気の多い洗面所も避けます。薬の袋や説明書に保管方法が書かれている場合は、その表示を優先してください。

防災の日と、処方が変わった日。この2回を見直しのきっかけにすると、古い薬が何年も残るのを防ぎやすくなります。

薬以外に、伝えてほしいこともあります

薬の一覧があっても、それだけでは判断できないことがあります。薬や食べ物でアレルギーが出たこと、以前に薬で強い副作用が出たことは、お薬手帳の目立つ場所に書いておいてください。治療中の病気や、使っている医療機器も分かると助かります。

糖尿病の薬などは、食事がほとんど取れない日に普段どおり使ってよいか、個別の指示が必要になることがあります。災害が起きてから初めて考えるのは大変です。「食べられない日は、この薬をどうすればいいですか」と、次の診察で確認しておくとよいでしょう。聞いた内容は、自分の記憶だけに置かず手帳へ書いておきます。

冷蔵庫に入れる薬がある人は、先に相談を

インスリンなどの注射薬、吸入薬、発作時に使う薬を持っている方は、一般的な錠剤と同じ準備では足りないことがあります。保管できる温度や、開封後に使える期間は製品ごとに違います。保冷剤で冷やせばよいと思っても、薬によっては凍結を避けなければなりません。

停電したらどう持ち出すか、針や測定器も必要か、避難先で体調が変わったときはどうするか。ここは普段使っている製品名を見ながら確認したほうが確実です。受診日や来局時に「災害のとき、この薬はどう持って出ればいいですか」と聞いてください。

9月1日は、10分だけ袋を開けてみる

新しい防災用品を買いそろえなくても、まず確認はできます。

  1. 今入っている薬が、現在の処方と同じかを見る
  2. 一人分ずつ分かれているかを見る
  3. お薬手帳のコピーか写真を用意する
  4. 次の処方まで、数日分の余裕があるか数える

古い薬が出てきて、飲んでよいか分からないこともあると思います。名前の分からない薬や、保管状態が気になる薬は、そのまま使わず薬局へ持ってきてください。

N9薬局でも一緒に確認できます

お薬手帳と、防災バッグの袋に入れている薬をそのままお持ちください。「何日分あるか、自分ではよく分からない」くらいの相談で大丈夫です。


参考にした資料