朝、一杯飲むまで頭が働かない。午後になると必ずエナジードリンクに手が伸びる。夜はなかなか寝つけないのに、朝はやっぱりだるい。
——もし心当たりがあるなら、この記事はあなたのための話です。
私は薬剤師として、栄養の面から働く方のご相談を受けてきました。そこで何度も出会うのが、「疲れているからカフェインを摂る」人ではなく、「カフェインを摂っているから疲れている」人です。順番が逆になっている。ご本人は、まず気づきません。
先日、イギリスが16歳未満へのエナジードリンク販売を禁止するというニュースが流れました。子どもの話として読み流されがちですが、私はむしろ、毎日それを飲んでいる大人にこそ考えてほしいと思いました。

先にお伝えしておきます。カフェインが悪いのではありません。問題は、知らないうちに出来上がる「依存」のほうです。
なぜ依存ができるのか、それが眠りや体調にどう響くのかを整理します。最後に、今日からできることを一つだけ提案します。
1. イギリスが引いた「子どもには売らない」という線
2026年7月16日、イギリス政府が発表しました。2027年4月から、イングランドで16歳未満への高カフェイン飲料の販売を禁止します。お店もカフェも自動販売機もネット通販も対象。紅茶とコーヒーは対象外とされました。
調べてみると、この議論は8年越しでした。2018年にも同じ案が出て、大手スーパーが自主的に販売をやめたものの、法律にならないまま立ち消えに。「お店の自主努力だけでは足りなかった」というのが、今回の判断のようです。
根拠になったのは、57件の研究・120万人以上の子どもをまとめた報告です。よく飲む子どもほど、眠る時間が短く質も低い、不安や落ち込みが多い、成績も下がりやすい。政府自身「直接の原因だとまでは言えない」と断ったうえで、それでも線を引きました。証明を待つより先に、子どもを守る側に倒したということだと思います。
2. 朝の一杯は「上乗せ」ではなく「穴埋め」かもしれない
ここからが本題です。多くの方は、コーヒーを「元気をプラスしてくれるもの」だと思っています。ところが毎日飲んでいる人では、少し事情が違うようなのです。
カフェインを毎日摂っている人が急にやめると、頭痛やだるさ、集中しにくさが出ます。多くは1日以内に始まり、数日続く。しかも1日100mg程度——コーヒー1杯分でも起こりうるとされています。
ここから、ある見方が出てきます。毎朝の一杯が与えているのは「いつもより元気な状態」ではなく、「夜のあいだに始まっていた切れかけの症状が消えて、やっと普通に戻った状態」なのではないか。何を隠そう、数年前までの私も、起床後のコーヒーがどうしてもやめられない一人でした。
決着のついた話ではありません。カフェインに目を覚ます働きがあること自体は確かです。それでも「毎日飲んでいる人ほど、感じている効果の一部は穴埋めにすぎない」という見方は、依存の正体を言い当てていると思います。
「飲まないと調子が出ない」。
それは効いている証拠ではなく、依存ができている合図かもしれません。
3. なぜ、飲むほど疲れやすくなるのか
「飲んでいるのに疲れが取れない」。現場でいちばん多い訴えです。特に40代以降で増える印象があります。理由は、少なくとも4つあります。
① カフェインはエネルギーを作りません
私たちの体を動かすエネルギーは、糖質や脂質から作られます。カフェインはその材料ではありません。
カフェインがしているのは、脳の中で「そろそろ休め」という信号を受け取る部分に、ふたをすること。火を消しているのではなく、火災報知器の音を止めているだけ。音が消えても、休みが必要な状態はそのまま残っています。「エナジー」ドリンクという名前は、この点で少し誤解を招きます。

② 眠りが削られ、削られた分をまた飲んで埋める
寝る6時間前にカフェインを摂った実験で、その夜の睡眠時間が実際に短くなりました。夕方の一杯が、夜まで効いているということです。
そして、眠れないから翌日また飲む。この繰り返しが、私がいちばん厄介だと感じている部分です。
ただし個人差は大きく、カフェインの分解の速さは生まれつき違います。「何時までならOK」に、万人共通の正解はありません。だからこそ、自分の場合を知る必要があります。
③ 血糖と自律神経に、二重の負荷がかかる
意外に思われるかもしれませんが、砂糖が入っていなくても、カフェインには血糖の処理を一時的に鈍らせる働きが報告されています。そこにエナジードリンクは砂糖を上乗せします。大きめの缶には1本で糖質46gという製品も。角砂糖にして11個分ほどです。
自律神経も見過ごせません。カフェインは血圧を上げ、ストレスがかかったときのストレスホルモンの出方を2倍以上に強めたという実験があります。毎日飲んでいる人でも、この反応はあまり弱まりませんでした。
プレッシャーのかかる場面で一杯飲む——アクセルの上に、もう一段アクセルを重ねるようなものかもしれません。
④ 鉄の吸収が下がる
栄養の面から、ここも押さえておきましょう。食事と一緒にコーヒーを飲むと、鉄の吸収が約39%下がります。紅茶では約64%。古い研究ですが、実際に測った確かなデータです。
鉄は血液の材料であるだけでなく、体の中でエネルギーを作る工程にも関わります。だるさ、息切れ、集中力が続かない——そうした不調が、貧血と診断される手前の鉄不足と重なることは、めずらしくありません。ただし症状だけでは分かりませんので、気になる場合は血液検査を含めて医師にご相談ください。
4. 「ライフスタイル医学」から見ると、なぜ厄介なのか
ここで一つ、聞き慣れないかもしれない言葉を説明させてください。ライフスタイル医学(Lifestyle Medicine)とは、食事・運動・睡眠といった毎日の暮らしそのものを、健康の土台として正面から扱う考え方です。米国で体系化され、専門の学会もあります。不調が出てから何かを足すのではなく、その手前の生活を整える——そういう発想です。
この分野では、健康の土台を6つの柱で整理します。栄養、体を動かすこと、睡眠、ストレス、有害なものを避けること、人とのつながり。私がこの枠組みを気に入っているのは、睡眠が他の柱の「上流」にあることが見えるからです。
眠りが削られると食欲のホルモンが乱れ、甘いものや脂っこいものが欲しくなります。深い眠りが減れば、血糖の調節にも響く。つまり眠りが崩れると、食事も、体を動かす気力も、ストレスへの耐性も、まとめて崩れていきます。
カフェインの怖さは、それ自体の毒性ではありません。いちばん上流の「睡眠」をそっと削りながら、削られた自覚まで奪ってしまうところにあります。これが、私が「知らないうちに作り上げられる依存」と呼んでいるものの正体です。
5. 【お子さんのいる方へ】日本には、まだ線が引かれていません
30代・40代の働く世代は、小中高のお子さんを持つ世代でもあります。ここは、ぜひ知っておいてください。
日本には、エナジードリンクの年齢制限がありません。
それどころか、カフェインの量を表示する義務すらありません。
あるのは業界の自主ルールだけで、法的な強制力はありません。国としての1日の上限も決まっていません。
参考になるのは海外の目安です。カナダでは、7〜9歳で1日62.5mgまで、10〜12歳で85mgまで、13歳以上は体重1kgあたり2.5mgまで。体重40kgのお子さんなら100mg。大きめのエナジードリンク1本で、軽く超えます。
日本小児科学会は2023年、8歳の男の子が自動販売機で買った500ml(カフェイン210mg)を一気に飲み、吐き気で救急外来を受診した例を報告しています。中毒になる量ではありませんが、年齢の目安の3倍以上です。
英国が線を引いたのは、子どもが自分で判断できないからです。日本にその線がない以上、当面それを引けるのは家庭しかありません。
6. 知っておきたい、二つの意外な事実
濃さでいえば、玉露はエナジードリンクを上回ります。玉露は100mlあたり160mg、エナジードリンクは製品によって32〜300mg。玉露は一度に飲む量が少ないので1杯の総量は抑えられますが、「エナジードリンクだけが危ない」わけではありません。受験生の夜のお茶も、一度数えてみる価値があります。
そして、日本で重い健康被害が出ているのは、飲みものより錠剤のほうでした。全国の救急医療機関の調査では、カフェインを1g以上まとめて摂って運ばれた101人のうち3人が亡くなり、そのうち97人が眠気覚ましの錠剤を飲んでいました。
これは意図的な大量摂取を多く含む話で、普通に飲んでいて起きることではありません。ただ、カフェインの眠気覚まし薬には、購入できる数量の法的な上限がありません。1回2錠で200mgという製品もあり、そこに缶コーヒーが重なれば、本人が意図しないうちに量は積み上がります。
7. まとめ:やめる話ではなく、「見える化」の話です
ここまで読んで「コーヒーをやめなきゃ」と思われたなら、それは私の本意ではありません。急にやめれば、頭痛とだるさが数日続くだけです。お願いしたいのは、たった一つ。
これから3日間、飲んだものを書き出してみてください。
何時に、何を、何杯。
それだけです。エナジードリンク、コーヒー、緑茶、栄養ドリンク、眠気覚ましの錠剤。合計してみると、多くの方が思っていたより多いことに気づかれます。私自身、やってみて驚いた一人です。
書き出したら、まず試していただきたいのは、減らすことではなくずらすことです。
- 最後の一杯を、寝る6時間前までに。(夕方4時以降が思い当たる方は、ここから)
- コーヒー・お茶は、食事の1時間前までに。(鉄を意識したい食事のときは、飲むなら先に)
- エナジードリンクは「毎日の燃料」から「ここぞの道具」へ。
依存は、意志の弱さではありません。気づかれないように作られるからこそ、依存なのです。だからまず、見えるようにする。順番はそれからで十分です。
出典
- UK Department of Health and Social Care.「Children’s health further protected with energy drinks ban」GOV.UK, 2026年7月16日/同「Banning the sale of high-caffeine energy drinks to children: consultation outcome」GOV.UK, 2026年7月16日
- Ajibo C, Van Griethuysen A, Visram S, Lake AA. “Consumption of energy drinks by children and young people: a systematic review examining evidence of physical effects and consumer attitudes.” Public Health. 2024;227:274-281. PMID: 38228408
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- 内閣府食品安全委員会「食品中のカフェイン」ファクトシート(最終更新2018年2月23日)
- 厚生労働省「食品に含まれるカフェインの過剰摂取について」
- 一般社団法人全国清涼飲料連合会「カフェインを多く添加した清涼飲料水の表示に関するガイドライン」
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- 日本小児科学会「Injury Alert(傷害速報)No.120」日本小児科学会雑誌 127巻1号, 2023年1月
免責:本記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の疾患の診断・治療・予防を目的とするものではなく、医師の診察や治療に代わるものではありません。体調に不安がある場合、また現在治療中・服薬中の方は、自己判断せず医師・薬剤師にご相談ください。紹介した研究結果は、対象者・条件・投与方法が限定された環境下でのものを含み、すべての方に同じことが当てはまるとは限りません。





















