「のどが渇く前に水分を」「汗をかいたら経口補水液を」。どちらも大切ですが、きちんと飲んでいるのに、午後はぐったりする。食欲がなく、そうめんや甘い飲み物だけで済ませ、翌朝も疲れが残る——その不調を水分不足だけで説明してよいのでしょうか。

N9薬局が注目するのは、水分だけでなく、暑さで崩れやすい「体のエネルギーの作り方」です。鍵になるのは、血糖をただ下げるのではなく、食べられる量と活動量に合わせて安定させること。糖質を控えたほうがよい人もいれば、むしろ適量を補う必要がある人もいます。

先に結論:夏バテ=水分不足、ではありません

水分不足は大きな原因ですが、それだけではありません。暑さで食欲が落ち、「食べない」「麺だけ」「甘い飲み物だけ」が続くと、血糖の上下と栄養不足が重なり、だるさから抜けにくくなることがあります。

1. 暑いと食べられない。それは「気のせい」ではない

健康な男性を調べた研究では、30℃の部屋にいた人は、20℃や10℃の部屋にいた人より昼食の量が少なくなりました。複数の研究をまとめた報告でも、暑い環境では食べる量が減る傾向があります。ただし個人差があり、原因は一つではありません。

問題は、食欲がない日に何を選ぶかです。そうめん、菓子パン、アイス、甘い飲み物だけでは糖質に偏り、肉・魚・卵・大豆製品や野菜が不足しがちです。また、食後に血糖が上がってから大きく下がる人ほど、早く空腹を感じ、次に食べる量が増えたという研究もあります。

夏バテの原因を証明した研究ではありませんが、食欲低下→糖質だけの食事→また甘いものが欲しくなるという循環を見直す手がかりになります。

2. 血糖の乱れと「体の緊張」が胃腸を疲れさせる

暑さ、寝不足、空腹などが重なると、体は危険に備える「緊張モード」になりやすくなります。このとき働く交感神経は、一般に胃腸の動きや消化液の分泌を抑える方向に働きます。血糖が急に下がったときもアドレナリンなどが出て、動悸、冷や汗、震えとともに、食欲の低下や吐き気を感じる人がいます。

ただし、胃腸の反応は一様ではなく、低血糖のときに胃から食べ物が出る速度が速くなった研究もあります。低血糖だけで「胃腸が止まる」と断定はできません。それでも、血糖の急な上下と体の緊張状態を何度も繰り返せば、落ち着いて食べにくくなり、消化も乱れやすくなります。

さらに、血糖が高い状態では胃や腸の動きが鈍くなることがあります。こうして、血糖が乱れる→胃腸がつらい→食べやすい麺や甘い物だけになる→また血糖が乱れるという悪循環が起こり得ます。強いのどの渇き、尿の増加、理由のない体重減少、少し食べただけで満腹になる状態が続くなら、検査や受診も考えましょう。

3. 夏バテの食事は、まず「たんぱく質」を土台にする

そうめん、うどん、パンは、食欲がない日にも口へ運びやすい食品です。しかし、それだけでは糖質に偏ります。体を動かし、筋肉や血液、体内で働くさまざまな物質を作るには、たんぱく質から得られるアミノ酸が欠かせません。夏こそ、「麺を食べる」ではなく「麺と何を一緒に食べるか」を考えます。

たとえば、そうめんに卵、豆腐、ツナ、蒸し鶏のどれか一品を加え、オクラ、わかめ、トマトなどを添えます。パンなら、ゆで卵、チーズ、ヨーグルト、豆のスープなどを組み合わせます。たんぱく質や野菜を先に食べる、または糖質と一緒に食べると、糖質だけを先に食べる場合より食後血糖の上昇が小さくなった研究があります。

固形物がつらい日は、具のあるスープから

食欲が落ちている人に、いきなり肉料理を一皿食べるよう勧めても続きません。まずは、卵と豆腐のスープ、鶏ひき肉と野菜のスープ、豆腐入りのみそ汁、魚をほぐした汁物などから始めます。最初は数口でも構いません。1日3食の形にこだわらず、少量を何回かに分けて、たんぱく質を少しずつ入れていきます。

スープなら、水分と塩分に加えて、具材からたんぱく質やビタミン・ミネラルもとれます。ただし、汁だけではたんぱく質は十分にとれません。卵、豆腐、鶏肉、魚などの具も食べられるスープにすることがポイントです。

4. ただし、主食を抜きすぎるのも逆効果

たんぱく質を土台にすることと、糖質をゼロにすることは違います。食べる量が減っている人がご飯やパン、麺まで極端に抜くと、エネルギー不足が深まり、だるさや立ちくらみにつながることがあります。

糖質の一部は、肝臓や筋肉に「グリコーゲン」という予備のエネルギーとして蓄えられます。主食を極端に減らすと、グリコーゲンと一緒に保たれていた水分や、尿から出る塩分・水分も減りやすくなります。だからこそ、主役はたんぱく質を含むバランスのよい食事、糖質はその人の食欲と活動量に合わせて適量という考え方が大切です。

糖尿病治療中の方は、食事量が減ると低血糖、血糖が高すぎると脱水の危険があります。薬を自己判断で増減せず、食べられない日の対応を主治医や薬剤師と事前に確認してください。

5. 経口補水液は「毎日の水」ではない

経口補水液は、糖と塩分の割合を調整し、脱水時に水分と塩分を吸収しやすくした飲み物です。熱中症が疑われるときには重要な選択肢ですが、厚生労働省の2026年資料では、塩分が多いため「定期的な摂取用には向かない」とされています。

普段は水やお茶を基本にし、食事から塩分をとります。大量に汗をかく作業や運動では、汗の量に応じて水分と塩分を補います。高血圧、心臓病、腎臓病などで水分・塩分を制限されている方は、主治医に確認してください。

6. 漢方は「限界になってからの救命薬」ではない

夏の不調に使われる代表的な漢方薬に清暑益気湯があります。医療用の説明書には、暑さによる食欲不振、下痢、全身のだるさ、夏やせなどが記載されています。のどが渇き、尿が少なく、吐き気、頭痛、むくみなどを伴う場合は、五苓散が検討されることもあります。

ただし、漢方薬は症状名だけで選ぶものではなく、体質や症状の組み合わせで選び方が変わります。清暑益気湯には甘草が含まれ、重ねてとりすぎると、血液中のカリウム低下、血圧上昇、むくみ、筋力低下などが起こることがあります。ほかの漢方薬、市販薬、サプリメントも薬剤師へお知らせください。

意識がおかしい、自力で飲めない、けいれん、強い吐き気、休んで冷やしても改善しない場合は、漢方薬を試す場面ではありません。涼しい場所へ移して体を冷やし、救急車を呼ぶなど、すぐに医療につないでください。

7. まとめ:夏の体調管理は「飲む」から「回す」へ

熱中症対策の土台は、暑さを避け、体を冷やし、水分と塩分を適切に補うことです。栄養や漢方が、その代わりになることはありません。

そのうえで、夏バテを繰り返す方は、飲んだ量だけでなく「何を食べ、何を抜いたか」を見直してください。血糖を整えるとは、糖質を一律に悪者にすることではありません。糖質だけの食事を減らす人、食べられる糖質を補う人、薬の調整について相談する人を分けることです。

まず3日間だけ、食事・飲み物・だるくなる時刻を書き出してみましょう。
そこに、あなたの夏バテの型が見えてきます。

  • 麺やパンだけなら、卵・豆腐・魚・肉と野菜を一品ずつ足す
  • 食べられないなら、糖質をゼロにせず、少量を小分けにする
  • 糖尿病治療中なら、食べられない日の薬の対応を医師・薬剤師と確認する

出典

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